看板を作って売る仕事です、と言ってしまえば、身も蓋もありません(笑)
ただ、普通の看板制作と、当工房のような木の看板制作では、異なる点がいくつかあります。
まずは、仕入れ。普通の看板制作では、定型の素材があり、そこに看板をデザインします。しかし当工房では、天然の一枚板を看板にします。つまり、切り出した木材を仕入れなければ、そもそも制作ができません。天然木ですので、足りないから発注してすぐに送ってもらう、というわけにもいきません。
幸い、信頼できる提携先を確保しているため、現在は豊富な在庫があります。定型ではなく、自分が気に入った形の木を選べるのが、木の看板のおもしろさでしょう。

次に、デザインです。基本的には、看板にしやすい整った形の木を揃えていますが、中には変わった形もあります。また、お客様から「この木で看板を作ってほしい」とご提供いただいた木が、節が多く、節を避けてデザインするのに苦労した、なんてこともありました。
反面、ひとつひとつ異なる形であるため、看板としての個性を出しやすい、という点は大きなメリットでしょう。人目を引く個性的な看板をご希望でしたら、木の看板がおすすめです。
木によって、文字によって、いろいろなイメージの看板を製作することができます。木に合わせたデザインは、この仕事のおもしろい点でしょう。

そして、製作。これも簡単ではありません。天然の木ですから、プリントして貼り付ける、というわけにはいきません。当工房は個人でこつこつ製作しているため、レーザー等の大きな工具もありません。すべて手作業で、彫り、塗り作業を行っています。
デジタル化が進んだ現代において、それは時代に逆行するやり方であるかもしれません。しかし、時代に沿っていないからこそ、個性が際立つのではないか、とも思います。作り手の贔屓目かもしれませんが、やはり手彫りの看板には、デジタルにはない温かみと個性があるように感じます。

最後は、経年劣化です。すべての看板に言えることですが、完成したときはピカピカでも、特に屋外設置ですと、年月とともに劣化していきます。木材の場合、どうしても日や雨に強いとは言えませんし、天然木ですから、自然と割れが発生することもあります。
しかし、これは個人的な思いですが、年月を重ねるごとの変化が楽しめるのが、天然木看板のよさなのではないかと感じています。鉄骨の看板が錆びていくのは寂しいものですが、天然木看板が、風雨にさらされ、丸くなり、その表情を変えていくのは、人が年老いていく中、年相応の雰囲気が現れていくのと似ているのではないか、と。
自然のものであるからこそ、変化が楽しめる。長いお付き合いができる。それが、天然の一枚板看板の魅力なのではないかと思っています。
制作の具体的な工程については、次回以降、ご紹介しましょう。