19.「木が暴れる」と言う話

「木が暴れる」と言っても、もちろん、台風などの強い風に吹かれて、樹木の枝や葉が激しく揺れている・・・と言うような話ではありません。

一枚板(無垢材)はその乾燥過程で、反りや割れなどが生じることがあり、われわれ無垢材を扱う者は、この反りや割れを「木が暴れる」と表現しているのです。この擬人化した表現は、木に親しみを込めた言い方でもあり、商品としては致命的な欠点となるこの性質を厄介に思う気持ちも含まれているようです。

無垢材はその質感や木目・色合いなど、自然が創り出した素晴らしい素材で、他のものに代え難い長所は素晴らしい看板制作のよりどころです。ただ、無垢材の唯一の欠点と思われる、この「反り」と「割れ」の対処には苦慮することが多いのも事実です。

無垢材の長所・短所を考慮しながら、これからも皆さんに喜んでもらえる良質の「無垢材の看板」制作に励みたいと思っています。

 

木の含水率について

木の反りや割れは木の乾燥過程で起こることで、木の含水率について先に説明しなければなりません。木の含水率は次の式によって算出されます。

ちょっと分かりにくいですね。簡単に説明すると、ここに重さが10kgの木材があるとします。何らかの方法で、中の水分を0に全乾燥したら、重さが8kgになったとします。つまり、2kgの水分が含まれていたわけです。

この木の含水率は何%だと思いますか。10kgのうちの2kgが水分・・・それでは20%・・・と思うのが普通ですが、分母が「全乾状態の木の重量」となっているので、数字を式にあてはめてみると

(10-8)/8×100=25 となり、20%ではなく、25%となります。

と言うことは、木の中の水分重量が半分の場合の含水率は100%となり、実際、含水率100%を越えることも起こり得るのです。

 

反りや割れが起こる理由

生木の含水率はその樹種や条件にもよりますが、40%~300%だそうです。また、木の部分によっても含水率は異なります。樹芯(幹の中心)に近い部分は乾燥が進んでいるのに対し、辺材(白太とも言い、表皮に近い部分)は含水率が高くなっています。

これは樹芯に近い部分の細胞はすでに死滅しており、樹木の成長の過程にある白太部分は水分の通り道である導管などがあり、活発に細胞が活動しているためです。

さて、伐採した樹木を大気中に放置しておくと、木の中の水分は少しずつ蒸発していきます。そして含水率が30%から15%程度にまで乾燥する過程で、木の収縮は起こり、反りや割れの現象が生じると言われています。

木の中の水分には2種類あって、細胞内の「結合水」と自由に移動できる「自由水」とがあり、その乾燥過程では最初に自由水が蒸発します。自由水のほとんどが蒸発した時の含水率はほぼ30%程度で、自由水がある間は木の収縮は起こらないようです。

さらに乾燥が進んで結合水が蒸発し始めると、木は少しずつ収縮し暴れ始めるのです。さらに乾燥を続けると、最終的には、含水率は15%程度で平衡に達し、ほぼ変わらなくなるそうです。この含水率を「平衡含水率」と言って、樹種に関わらずほぼ15%です。

つまり、この状態になると木の収縮も収まりと言われており、乾燥が無垢材にとってとても重要な工程になります。収縮が収まると反りや割れもなくなるはずですが、現実はそれほど単純ではありません。

 

反りについて

通常、看板材などの一枚板は幹丸太を厚さ40mm前後に機械でスライスして使います。丸太の中心部を髄(樹心)と言い、樹心を木口に持つ板材のことを「心持ち材」と言ったりします。この心持ち材は木表・木裏の別がなく、下図のように木目は柾目になることが多く反りはあまり出ません。

※上図は「家具&木工用辞典」より転載させていただきました。

それに対して、樹心から離れたところの板材は木目が板目になり、乾燥の過程で反りが程度の差はありますがほとんどの場合出ます。

木の面では、表皮に近い方の面が木表(きおもて)、樹心に近い方の面が木裏(きうら)になり、反りは木表側に凹になるのが普通です。これは、より多くの水分を含んだ白太(辺材)部分が乾燥により収縮が大きくなるため、つまり樹心から離れる(表皮部分に近づく)に連れて反りは大きくなる傾向にあるようです。

ただ、ことはそれほど単純ではなく、木目が乱れている板目材などでは反りの方向も一定ではなく、捻じれて反るなど様々です。

それでは、反りへの対処はどのようにしたらよいのでしょう。

乾燥が一番重要で、板材に加工してからもできる限り乾燥に時間を掛け、つまり暴れるだけ暴れさせてから、反りを修正して仕上げることです。そのため、反りを見込んで板材は厚めにスライスしています。

注文をいただいた時なども反りを確認し、微修正したりすることもあります。また、幅広の特大の看板などで将来的な反りの可能性が考えられる場合は看板裏面に桟などの角材で補強する場合もあります。

 

割れについて

割れについても、その原因は板材の乾燥過程での収縮によって起こるものがほとんどです。割れにもいろいろなものがあって、木口(こぐち)からの割れは広がる恐れがあり一番神経を使います。

その他に木の表面に細い筋状の小割れが出ることもあります。これは主に白太(辺材)部分で、水分の蒸発により収縮が大きい場合に起こるようです。また、節や節の周りにもこのような小割れ現象も見受けられますが、これらの小割れはそれほど大きな割れにはつながらないのが普通です。

それから、「心持ち材」は反りの心配が少ないのですが、反面、樹心部分は小割れが出ることが多く、木口の割れにつながることもあり要注意です。

割れに対する対処法は基本的には反りの場合と同じで、板材としての乾燥を十分にすることです。乾燥途中に暴れるだけ暴れさせ、割れが出たら、その部分を除いて看板材として仕上げます。また、木口面に割れ止め材を塗装する場合もあります。

看板材としての保管中にも割れが生じることがあります。その場合は割れの部分を取り除いた上で、念のためにその木口に斜めから100mmほどのビス(ネジ釘)を埋め込んで割れが起こらないような処置をすることもあります。

それから、割れや反りを防ぐのに、看板の保護塗装も有効です。保護塗装剤としてウッドスキンコートという皮膜型の塗料を下地材も含めて4回塗りをするのですが、名前の如く、皮膚のように木の表面と外界を遮断するので、反りや割れに有効だと考えています。

 

最後に

今回は無垢材の欠点とも言える「反り」と「割れについて書きましたが、その欠点を補ってあまりあるほどの素晴らしい長所があることも事実です。

自然の摂理である無垢板の長所も短所も人間の理解を越えたところもあり、これからも謙虚な気持ちで無垢材と付き合っていきたいと思っています。

 

※参考文献(ウィキペディア)

⇒ https://bit.ly/2Gh3gVt