森にはさまざまな働きがあります。一つは天然資源である木材の供給源としてのものであり、そしてもう一つは人間をはじめ生物生存に必要不可欠な水と空気の循環の根源を為す働きをしていることです。
ただ、この二つの働きの他にも、森はさまざまな恩恵を私たち地球上生物に惜しげもなく、かつ、さりげなく提供しています。資源として伐採された木材にしてもしかりです。
■二つの自然循環をを司る森
地表に降る雨は表流水や地下水となって河川を経由して海に到達します。そして海や地表から蒸発、雲を形成し、再び雨を降らせます。 この一連のサイクルが水循環ですが、この中で、水を蓄える森の働きを見逃すわけにはいきません。
森林は「緑のダム」とも呼ばれ、降った雨を地下水として蓄え、少しづつ川へ流していきます。緑が豊かな山ほど、その保水力が高いと言えます。この森の保水力により、森から海に至る様々な生物の生命の営みの源になっているのです。
もう一つは、人間の呼吸や生活・工場などから排出される二酸化炭素を吸収し、酸素を放出する森の働きです。
近年、空気中の二酸化炭素(CO2)が増加し地球温暖化などの問題が生じていることはご存知の通りです。今まで森林などの働きによって均衡を保たれていたものが、人間の活動によって循環システムが崩れかけているのです。
現代のような経済発展を逆戻りすることは無理な話ですが、何とか人間の英知を集め、自然との共存を図らなければ、私たち人間の未来も危機にさらされることになります。
■木材資源としての森
この森を構成している木々は自然環境保全の働きの他に、資源としての側面も持っています。
天然資源である木材の利点は生産・供給を上手にコントロールできれば、永続的に再生産が可能であるということ、それにもう一つ、自然素材の木材はいつかは土に還る、環境を害さない資源でもあること、です。
別の言い方をすると、木材は生産・加工する過程において、他の資材よりエネルギーコストがかからず、環境負担が小さく、地球環境にとって優しい資材ということが言えます。
近年は石油等を原料としたプラスチックなどの合成資源が幅を利かせていますが、それらは再利用若しくは焼却しない限り、ゴミとして残り続けるのです。
安易に利便性を追求するのではなく、木と上手に付き合うことを真剣に考えても良い時期に来ているのではとも思います。過去の日本人が長い間、やっていたように・・・・。
それからこんな話もあります。
樹木は二酸化炭素を吸収して成長します。その木材はエネルギーとして燃焼させても吸収量以上の二酸化炭素は排出できないという「カーボン・ニュートラル(炭素固定)」な特性があります。つまり、化石燃料に代えて木材をエネルギーとして利用すれば、新たな二酸化炭素排出は抑制できると言う訳です。
■森の効用
森の中は街とは違って、空気が爽やかで、ほのかな芳香を感じます。これは樹木が発するフィトンチッドという揮発性物質の作用によるものだということが分かっています。
森は人間をリラックスさせる「癒し効果」があるのは、森を散策したことがある人なら実感として分かると思います。そんな森は、私たち都会に住む者にとってはちょっと遠い存在になりつつあるような気がします。でもちょっと足をのばせば、手つかずの自然が残った森は都会の近くでも意外と多いものです。
【神戸市 ひよどり越えの森】
■木の家の効用
木材を使った住まいは、人に安らぎや落ち着きを与え、精神の安定をもたらすと言われています。視覚的には木目の優しさや自然の色合い、木のもつ香りや柔らかな空気などは、化学的にも立証されているようです。
また、コンクリート造りの家に比べて木の家は「調湿」機能が優れているようです。木材の組織内にはたくさんの空洞があり、湿度が高い時はその空洞に空気中の水分を取り込み、乾燥している時は取り込まれた水分が放出され、室内を快適空間としてくれます。コンクリートに比べ結露しにくいという特長もあります。
木に何かしらの親近感や温かみを感ずるのは、人間も木も自然の一部だというところでつながっているからなのでしょう。
それにしても、木に囲まれた工房で気分が和むのは、視覚的な木の風合いだけではなく、精気を発していた名残を自然のうちに感じているのかもしれません。