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39.木の看板屋の後を継ぐ話

 長らくこのコラムは店主である鵜林英樹が書いていましたが、今回から、息子が引き継ぐことになりました。みなさま、よろしくお願いいたします。
 開業以来、鵜林英樹一人で受注から制作、梱包、発送などを行っていました。しかし、そろそろ高齢になってきたこともあり、息子が手伝うことになったのです。とはいっても、父は体は元気そのもの、趣味のランニングも相変わらず続けています。これからまだ何年も、看板制作の仕事を続けるでしょう。というわけで、当面は父と息子の二人で、流木工房を運営していくことになります。


 現在、看板の制作は主に父が担当し、僕は、お客様とのやりとりやイラストレーターでのデザインなどを担当しています。そして今、実際の看板の作り方や技術を、父から教わっているところです。
 木の彫り方、色の塗り方、使うニスの種類など、覚えることはとてもたくさんあります。昔から工作は好きですし、手先も器用なほうだと思っていますが、これがなかなか難しい。
 端材を使って練習しているのですが、うまくできたかな、と思っても、父が仕上げたものを見ると、やはり遠く及びません。さすが、何十年も木の看板を作り続けているだけのことはありますね!(と、持ち上げておきます)


 具体的にどうやって木の看板を制作しているのか、どんな工夫をしているかなどは、これからは修行をする息子の目線で、このコラムで取り上げていきたいと思っています。
 というわけで、ある意味「木の看板屋の二代目の成長日記」を温かく見守っていただければと思います。

40.そもそも「木の看板制作」ってどんな仕事?

 看板を作って売る仕事です、と言ってしまえば、身も蓋もありません(笑)
 ただ、普通の看板制作と、当工房のような木の看板制作では、異なる点がいくつかあります。

 まずは、仕入れ。普通の看板制作では、定型の素材があり、そこに看板をデザインします。しかし当工房では、天然の一枚板を看板にします。つまり、切り出した木材を仕入れなければ、そもそも制作ができません。天然木ですので、足りないから発注してすぐに送ってもらう、というわけにもいきません。
 幸い、信頼できる提携先を確保しているため、現在は豊富な在庫があります。定型ではなく、自分が気に入った形の木を選べるのが、木の看板のおもしろさでしょう。

 次に、デザインです。基本的には、看板にしやすい整った形の木を揃えていますが、中には変わった形もあります。また、お客様から「この木で看板を作ってほしい」とご提供いただいた木が、節が多く、節を避けてデザインするのに苦労した、なんてこともありました。
 反面、ひとつひとつ異なる形であるため、看板としての個性を出しやすい、という点は大きなメリットでしょう。人目を引く個性的な看板をご希望でしたら、木の看板がおすすめです。
 木によって、文字によって、いろいろなイメージの看板を製作することができます。木に合わせたデザインは、この仕事のおもしろい点でしょう。

 そして、製作。これも簡単ではありません。天然の木ですから、プリントして貼り付ける、というわけにはいきません。当工房は個人でこつこつ製作しているため、レーザー等の大きな工具もありません。すべて手作業で、彫り、塗り作業を行っています。
 デジタル化が進んだ現代において、それは時代に逆行するやり方であるかもしれません。しかし、時代に沿っていないからこそ、個性が際立つのではないか、とも思います。作り手の贔屓目かもしれませんが、やはり手彫りの看板には、デジタルにはない温かみと個性があるように感じます。

 最後は、経年劣化です。すべての看板に言えることですが、完成したときはピカピカでも、特に屋外設置ですと、年月とともに劣化していきます。木材の場合、どうしても日や雨に強いとは言えませんし、天然木ですから、自然と割れが発生することもあります。

 しかし、これは個人的な思いですが、年月を重ねるごとの変化が楽しめるのが、天然木看板のよさなのではないかと感じています。鉄骨の看板が錆びていくのは寂しいものですが、天然木看板が、風雨にさらされ、丸くなり、その表情を変えていくのは、人が年老いていく中、年相応の雰囲気が現れていくのと似ているのではないか、と。
 自然のものであるからこそ、変化が楽しめる。長いお付き合いができる。それが、天然の一枚板看板の魅力なのではないかと思っています。
 制作の具体的な工程については、次回以降、ご紹介しましょう。